大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和62年(行ウ)103号 判決 1989年2月27日

東京都八王子市狭間町一八六二番

原告

鈴木ミサ子

右訴訟代理人弁護士

岩崎公

楠田直樹

東京都八王子市子安町四丁目四番九号

被告

八王子税務署長

武内寛治

右指定代理人

野崎守

赤穂雅之

藤本和昭

内倉裕二

石田猛

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和六一年六月三〇日付けでした原告の昭和五九年分所得税の更正及び過少申告加算税賦課決定(ただし、いずれも昭和六一年八月八日付け更正及び変更決定により減額された後のもの)のうち、納付すべき税額九五一万一七〇〇円、過少申告加算税四万五五〇〇円を超える部分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告の昭和五九年分所得税につき、原告がした申告並びに被告がした更正及び過少申告加算税の賦課決定並びに不服申立ての経緯は、別表一の順号1ないし10記載のとおりである。

2  しかし、別表一の順号6記載の昭和六一年六月三〇日付け更正(ただし、同表の順号9記載の昭和六一年八月八日付け更正により減額された後のもの。以下「本件更正」という。)は、納付すべき税額を過大に認定した違法があり、また、本件更正を前提とした本件更正と同日付けの過少申告加算税賦課決定(ただし、同表の順号9記載の昭和六一年八月八日付け変更決定により減額された後のもの。以下「本件賦課決定」といい、本件更正と併せて「本件処分」ともいう。)も違法である。

よつて、原告は、本件更正のうち納付すべき税額が九五一万一七〇〇円を超える部分及び本件賦課決定のうち過少申告加算税額が四万五五〇〇円を超える部分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2は争う。

三  被告の主張

1  原告の昭和五九年分の所得税に係る所得金額

(一) 総所得

(1) 総所得金額 一〇四万八一七八円

(2) 課税総所得金額 〇円

(二) 分離課税の長期譲渡所得

(1)長期譲渡所得金額 五八四六万三八三〇円

右金額は、原告が、昭和五九年三月一五日、自己の所有する東京都八王子市諏訪町三三三番、畑一一〇〇平方メートルの土地(昭和五九年一一月九日、三三三番一ないし三三三番九に分筆。以下「本件土地」という。)を株式会社和進(以下「和進」という。)に対して譲渡した(以下「本件譲渡」という。)ことによる所得金額である。

本件土地は、もと原告の義父鈴木正平(以下「正平」という。)の所有であつたが、昭和四六年一二月八日に正平から原告の夫鈴木秀雄(以下「秀雄」という。)に対して贈与され、昭和五〇年六月二九日に秀雄が死亡したため原告が相続により取得したものであるから、原告の本件土地の所有期間については、租税特別措置法(以下「措置法」という。)三一条(昭和六二年法律九六号による改正前のもの。以下同じ。)二項及び措置法施行令二〇条二項(昭和六二年政令三三三号による改正前のもの。)、三項により秀雄が取得した日の翌日から引き続き原告が所有していたものとみなされ、本件譲渡があつた年である昭和五九年の一月一日における原告の所有期間は一〇年を超えていることになるので、本件土地の譲渡は、措置法三一条一項の長期譲渡所得に該当する。

(2) 課税長期譲渡所得金額 五七六三万九〇〇〇円

2  本件処分の適法性

(一) 本件更正

措置法三一条一項により、右1の(一)の(2)の課税総所得金額及び右1の(二)の(2)の課税長期譲渡所得金額に基づき原告の昭和五九年分所得税に係る納付すべき税額を計算すると、別表二のとおり一二八三万四四〇〇円となるから、これと同額の本件更正は適法である。

(二) 本件賦課決定

本件更正によつて原告が新たに納付すべきこととなる税額は、四二三万円(ただし、国税通則法一一八条三項により端数を切り捨てた後の金額)であるところ、同法六五条(昭和六二年法律九六号による改正前のもの)により、右税額に一〇〇分の五を乗じて、本件更正に伴う過少申告加算税の額を計算すると、二一万一五〇〇円となるから、これと同額の本件賦課決定は適法である。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1の(一)、(二)の事実は認める。

2  同2の(一)のうち、別表二の総所得金額、長期譲渡所得金額、課税総所得金額、課税長期譲渡所得金額及び源泉所得税額は認め、その余は争う。納付すべき税額の算出は、措置法三一条三の第一項により行うべきである。

同(二)は争う。

五  原告の反論

1  本件土地譲渡の経緯

(一) 措置法三一条の三(昭和六〇年法律七号による改正前のもの。以下同じ。)は、宅地の用等に供するための特定市街化区域農地等の譲渡による譲渡所得に係る所得税を軽減する特例(以下、「本件特例」という。)を定めているところ、同条二項二号及び措置法施行令二〇条の三第二項(昭和六三年政令七三号による改正前のもの。以下同じ。)一号は、特定市街化区域農地の固定資産税の課税の適正化に伴う宅地化促進臨時措置法(以下「宅地化促進法」という。)二条に規定する特定市街化区域農地で地方税法附則二九条の五第一項に規定する長期営農継続農地としての認定を受けたものについて、措置法三一条の二(優良住宅地の造成等のために土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例。昭和六〇年法律七号による改正前のもの。以下同じ。)第二項四号所定の、都市計画法の開発許可を受けて一団の宅地の造成を行う者に対する譲渡に該当する譲渡をすることになつたという事情が生じたことにより、当該長期営農継続農地として引き続き保全することができないこととなつた場合には、当該農地を措置法三一条の三第一項の特定市街化区域農地等に当たるものと規定し、同項の適用を受け得るものとしている。

(二) 本件土地は、特定市街化区域農地に当たり、長期営農継続農地としての認定を受けたもので、本件譲渡により長期営農継続農地として保全することができなくなつたものである。そして、原告は、本件土地の譲渡の数年前から本件土地を宅地として売却するつもりでいたが、本件土地は公道にも私道にも接していないため、本件特例に沿つて措置法三一条の二第二項四号の要件どおり開発許可を受けて宅地造成を行う買受人を見つけることはできなかつた。そこで、原告は、本件土地に隣接し、公道に接する東京都八王子市諏訪町三三四番、畑一〇九七平方メートルの土地(以下「隣接地」という。)を所有者である正平の了承を得て本件土地と一括して一団の宅地の造成のための開発許可申請をし、その上で本件土地の買主を探すことにして、まず、原告名義で開発行為事前承認申請を行い、申請が受理されて開発許可を得られる見通しが立つた時点で、かねて商談を進めて来た和進に対し、万一計画どおり原告が開発許可を得られなかつた場合の解除権を和進に与えた上、本件譲渡をするに至つたのである。

(三) その後、原告は、和進の意向に従つて開発許可申請をし、昭和五九年五月一八日、これが受理され、同月二一日、開発許可が得られた。その後は名実共に和進によつて造成工事が行われ、同年一〇月一五日に造成工事が完了し、同年一一月二七日、原告から和進に対して本件土地について所有権移転登記手続がされ、翌年和進から造成宅地の分譲が行われた。なお、造成工事の注文者には原告も名を連ねており、工事費用のうち一三〇〇万円は原告が負担しているが、これは本件開発行為が和進に譲渡された本件土地だけでなく前述の正平所有の隣接地と一括して行われたため、隣接地部分については原告が注文者として工事費用も負担したからであり、本件土地部分については和進が注文者で費用負担者である。

2  本件特例への該当性

(一) 宅地化促進法は、特定市街化区域農地の固定資産税の課税の適正化を図るに際し、これと併せて、特定市街化区域農地の宅地化を促進するため行われるべき租税の軽減等の措置につき必要な事項を定めたものである(同法一条)ところ、同法八条一項は、特定市街化区域農地を有する個人が宅地の用に供するためにこれを譲渡した場合においては措置法で定めるところにより譲渡所得税を軽減する旨規定しており、これに基づいて定められたのが本件特例である。

(二) 右の本件特例の立法趣旨からすれば、措置法三一条の三の適用の要件としての同法三一条の二第二項四号の譲渡の該当性を判断するにあたつては、同号の規定が開発許可を受けた者を譲受人に限定している点に拘泥することなく、譲渡人である原告が開発行為許可を受けた本件譲渡のような場合も同号の譲渡に該当するものとすべきである。

(三) 仮に開発許可を受けた者を譲受人であるとすることが要件であるとしても、本件譲渡は特定市街化区域農地の宅地化促進という本件特例の立法趣旨に合致するものであるところ、本件土地の開発許可申請は和進の意向に沿つて行われたものであり、造成は名実共に和進が行つたのであるから、実質上、本件土地について開発許可を受けたのは原告ではなく譲受人である和進にほかならないというべきであり、かような場合には措置法三一条の二第二項四号の譲渡に該当するというべきである。

(四) 本件で措置法三一条の二第二項四号の譲渡の該当性が問題となつているのは、同条所定の課税の特例の適用の要件としてではなく、本件特例の適用の要件である措置法施行令二〇条の三第二項の掲げる「事情」としてであるに過ぎないのであるから、措置法三一条の二所定の課税の特例を適用する場合と同様の厳格性が要求されるわけではなく、準ずる場合も包含すると解すべきであり、右1の(二)、(三)の事実関係のもとでは本件譲渡は少なくとも準ずる場合に該当する。

(五) 八王子市長は、昭和六一年一〇月二一日、原告に対し、地方税法附則二九条の五(市街化区域農地に対して課する固定資産税及び都市計画税の納税義務の免除等)第八項により、長期営農継続農地として徴収を猶予されていた本件土地に係る固定資産税及び都市計画税の免除決定通知をしたが、これは本件譲渡が地方税法施行令附則一四条の五第七項(昭和六三年政令七七号による改正前のもの。以下同じ。)四号に規定する措置法三一条の二第二項四号に掲げる譲渡に当たるとの判断に基づくものであり、本件も同様に判断すべきである。

六  原告の反論に対する認否

1  原告の反論1の(一)は認める。

同(二)のうち、本件土地が特定市街化区域農地で長期営農継続農地としての認定を受けたもので、本件譲渡により長期営農継続農地として保全できなくなつたものであること及び開発行為事前承認申請が原告名義で行われていることは認め、その余の事実は知らない。 同(三)のうち、開発許可申請が和進の意向に従つたものであること及び造成工事が名実共に和進によつて行われたことは否認し、その余の事実は認める。

本件土地の開発計画は、本件譲渡から一年以上遡る昭和五八年二月に原告が有限会社三上測量設計に依頼して作成されたものであり、開発行為の事前承認申請も原告が行つたもので和進は関与していない。造成工事の発注者も原告及び和進であり、費用の負担についても、造成工事費については隣接地に係る分について原告が応分の負担をしているほか、測量費など原告が単独で負担しているものもある。

2  同2の(一)は認める。宅地化促進法は、昭和四八年法律二三号による地方税法の一部改正により、特定市街化区域農地についていわゆる宅地並み課税が行われることになつたことに伴つて制定されたもので、租税の軽減だけでなく宅地化促進のために行われるべき事業の施行、資金に関する助成等土地政策について必要な事項を広く定めたものである。

同(二)は争う。本件特例は、国の土地政策の一環として、農地法、都市計画法等の規制目的との整合性にも配慮しつつ、特定市街化区域農地の宅地化を促進する目的を達成するために制定されたものであるが、明確に一定の要件を定めており、特定市街化区域農地を宅地の用に供するために譲渡したからといつて、そのことだけで常に本件特例の適用を受けられるものではないことはその規定上明らかである。そして、本件特例は、国の土地政策の一環として税制上の優遇を与えることにより、土地を大量に放出させ、かつ、大量の優良な住宅地を確保することを目的としているところ、土地所有者が自ら開発許可を受けて宅地造成を行つた場合には、その造成地を譲渡するかどうかは土地所有者の自由意思に委ねられ、必ずしも宅地供給の量的な面で土地政策を満足させないことが予想され、それよりも、宅地開発予定区域内に存在する所有者を異にする小規模な素材としての土地の集約化を図れる立場にある開発業者等に対する同区域内の土地の譲渡に関し税制上の優遇を与えた方が右土地政策目的にかなうものとなるので、開発業者等に対する土地の譲渡に関する限り税制上の優遇を与えることとしたものである。この場合に、開発業者等が都市計画法の開発許可を受けることを要件としたのは、適正な宅地造成のされることを担保するためである。

同(三)は争う。本件土地の開発許可は、形式のみではなく実質的にも原告が得たものというべきである。

同(四)は争う。本件特例は、租税の軽減に関する特例法規であるから、その適用、解釈は厳格に解すべきあり、例外を認めることは許されない。

同(五)のうち、八王子市長が原告に対し本件土地に係る徴収猶予税額の免除決定通知をしたことは認め、その根拠は争う。八王子市長が本件土地に係る徴収猶予税額の免除通知をしたのは、本件土地が地方税法施行令附則一四条の五第七項四号所定の措置法三一条の二第二項四号に掲げる譲渡に当たると判断したからではなく、同附則一四条の五第七項一〇号所定の右譲渡に準ずるものに該当すると判断したことによるものである。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1の事実並びに被告の主張1の(一)、(二)の事実及び同2の(一)のうち別表二の源泉所得税額は、いずれも当事者間に争いがない。

二  原告は、本件譲渡による譲渡所得に対しては、本件特例(措置法三一条の三)が適用されるべきであると主張するので、以下、この点について判断する。

1  本件特例は、宅地の用等に供するための特定市街化区域農地等の譲渡による譲渡所得に係る所得税を軽減する特例であつて、この適用の対象は特定市街化区域農地等に限定されているところ、措置法三一条の三第二項二号及び措置法施行令二〇条の三第二項一号によれば、宅地化促進法二条に規定する特定市街化区域農地で地方税法附則二九条の五第一項に規定する長期営農継続農地としての認定を受けたものについて、措置法三一条の二第二項四号所定の、都市計画法の開発許可を受けて一団の宅地の造成を行う者に対する譲渡に該当する譲渡をすることになつたという事情が生じたことにより、当該長期営農継続農地として引き続き保全することができないこととなつた場合には、当該農地を特定市街化区域農地等に該当するものとしている。そして、右の事情に当たる譲渡としては、右のとおり、開発許可を受けた者に対する譲渡のみが掲げられており、開発許可を受けた者がする譲渡は掲げられていない。

2  本件土地は、特定市街化区域農地に当たり長期営農継続農地としての認定を受けたもので、本件譲渡により長期営農継続農地として保全できなくなつたものであることは当事者間に争いがないが、他方、本件土地に関わる都市計画法の開発許可を得たのは原告であつて本件土地の譲受人である和進でないことも当事者間に争いがない。したがつて、本件譲渡は、文理上は、措置法三一条の二第二項四号所定の譲渡には該当しないから、本件土地は、特定市街化区域農地等に該当せず、本件特例の適用はないとせざるを得ない。

3  原告は、本件特例は宅地化促進法に基づくものであり、その立法趣旨は特定市街化区域農地の宅地化の促進にあるところ、かかる立法趣旨からすれば、措置法三一条の三の適用の要件としての同法三一条の二第二項四号所定の譲渡の該当性を判断するに当たつては、同号の明文規定に拘らず、開発許可を受けた者が譲渡人であつても差し支えない旨主張する。しかしながら、本件特例の主眼となる立法趣旨が原告主張のとおりであるとしても、具体的にいかなる場合に税制上の優遇を与えるかは立法政策に属する問題であるというべきである。そして、本件特例のような税法上の特別措置の適用は、原則として法令の明文規定に該当する場合に限定されるべきものであり、それと異なる解釈をするためには、少なくとも、その明文規定が著しく不合理であるといえなくてはならない。しかるところ、措置法三一条の二第二項四号が、開発許可を受けた者に対する譲渡のみを規定していて、開発許可を受けた者がする譲渡が掲げられていないことは、右1に述べたとおりである。そして、これは、宅地開発予定区域内に存する所有者の異なる土地を開発許可を受けた者に集約化することを容易にするため、これに対する譲渡に本件特例による税制上の優遇を与えることとし、もつて、宅地開発の促進を図ろうとするにあり、これとは明らかに区別される開発許可を受けた者がする譲渡については、税制上の優遇を与える対象から除外することとしていると解されるのであるが、これをもつて不合理であるとは到底いい難い。したがつて、開発許可を受けた者が譲渡人であつても、本件特例の対象とすべきである旨の原告の主張は失当である。

4  原告は、本件譲渡は特定市街化区域農地の宅地化促進という本件特例の立法趣旨に合致し、開発許可申請の内容は和進の意向に沿つて行われ、造成も和進が行つたものであるから、実質上、本件土地について開発許可を受けたのは原告ではなく譲受人である和進にほかならないとして、かような場合には措置法三一条の二第二項四号の譲渡に該当するというべきであると主張する。しかし、開発許可申請の内容が和進の意向に沿つたもので、造成を行つたのが和進であるとしても、かかる事実のみをもつて、実質上和進が開発許可を取得したということはできないのみならず、弁論の全趣旨により成立が認められる甲第一一号証、一三号証によれば、原告が本件土地について自ら開発許可を得たのは、そのままでは本件土地の買受人がいなかつたからにほかならず、和進との間の売買契約においても、原告に対する開発許可がなされることが条件となつていることが認められるから、本件土地について開発許可を得たのは名実共に原告であるといわざるを得ず、原告の右主張も採用することはできない。

5  原告は、本件で措置法三一条の二第二項四号の譲渡の該当性が問題となつているのは、同条所定の課税の特例の適用の要件としてではなく、本件特例の適用の要件である措置法三一条の三第二項二号の規定を受けた措置法施行令二〇条の三第二項の掲げる「事情」としてであるに過ぎないことを理由に、右の譲渡への該当性の判断が緩和されるべきことを主張するが、前述したとおり、右の「事情」としてであつても本件特例の適用を受けるために必要な要件であることには何ら変わりがないから、原告の右主張も採用することができない。

6  最後に、八王子市長が原告に対し本件土地に係る徴収猶予税額の免除決定通知をしたことは当事者間に争いがないところ、原告は、その理由を同市長が本件譲渡が地方税法施行令附則一四条の五第七項四号所定の措置法三一条の二第二項四号に掲げる譲渡に当たると判断したからであるとして、本件でも同様に判断すべきであると主張する。しかし、八王子市長の右判断は、もとより、本件の判断を拘束するものではないし、原本の存在及び成立に争いがない乙第五号証の一、二によれば、右の免除決定通知は、本件譲渡を措置法三一条の二第二項四号所定の譲渡に該当するとしたものではなく、右譲渡に準ずるものとして同附則一四条の五第七項一〇号に該当するとしたものに過ぎないことが認められるから、原告の右主張もやはり採用することはできない。

三  以上のとおり、本件譲渡による譲渡所得に対し本件特例(措置法三一条の三)が適用されるべきであるとする原告の主張は失当であり、右所得に対しては同法三一条一項が適用されるべきであるところ、これに従つて、右一の課税総所得金額、課税長期譲渡所得金額及び源泉所得税額に基づき原告の昭和五九年分の所得税に係る納付すべき税額を算出すると、別表二のとおり、一二八三万四四〇〇円となるから、これと同額の本件更正は適法である。また、右一によれば、原告の昭和五九年分所得税の申告所得税額は八五九万八七〇〇円であるから、原告は過少に右所得税の申告をしたものであるところ、本件更正により新たに納付すべきこととなる税額四二三万円(ただし、国税通則法一一八条三項により端数を切り捨てた後の金額)に同法六五条一項(昭和六二年法律九六号による改正前のもの)により一〇〇分の五を乗じて算出した過少申告加算税の額二一万一五〇〇円を原告に賦課した本件賦課決定も適法である。

四  よつて、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鈴木康之 裁判官 石原直樹 裁判官 佐藤道明)

別表一

昭和五九年分

<省略>

別表二

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例